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十代の頃から、青森県内の古武術、古武道の遺産を訪ねてまわった。
我が家と同じく、脈々と武を伝えてきたお仲間がいるはずだと。
しかし何処まで行っても、失われた跡ばかり続いた。
あたかも荒涼とした砂漠を歩いているような、己だけ取り残されたような寂寥感があった。
ところがいまは違う。
歴史をリスペクトしようとも、それに依存してはならない。
私自身を、いまこれからを救えるのは、私自身しかいないのではないか。
たとえ、先人達の足跡がいくら失われようとも、いまここで己自身が立ち上がればいい。
そして何より、心強いお仲間達がいるではないか。
今日は、修武堂のH氏、外崎源人氏、弘前大学古武術研究会のK氏、E氏の5名で、本覚克己流和(ほんがくこっきりゅうやわら)元師範であるK師範を表敬訪問し、いろいろとご教示いただいた。
K師範のことは、5年前、亡き加川康之氏とともに、武道史研究者太田尚充先生宅を訪問したときに情報をお聞きしていた。
加川氏とは「いつかご挨拶にいこう」と約束したまま、彼が亡くなり、果たせていなかった。やっとその約束が果たせる。
K師範は、ご高齢と諸事情があって、もう稽古はしていないとのことだったが、お話が始まるとお元気そのもので、威厳とともに禅学への深い知識にあふれていた。
本覚克己流和などのいろんな思い出話をお教えいただいた。
思いつくまま、公開できる概要を羅列する。
旧弘前藩は「表看板に小野派一刀流と卜傳流を掲げ、裏看板では當田流を掲げていた」という伝承。
そして、本覚克己流和の歴代宗家、故宮本源五郎師範、その弟子の故大津育亮師範、同じく当流を修めていた寺山竜夫師範らの思い出。
(特に宮本師範の足裏の皮が、激しい稽古で厚くなっていたという話には驚いた。)
また、同流和の技は、グレイシー柔術の祖コンデコマ前田光世だけでなく、有名な西郷四郎までが参考にしたという伝承。
そして、同流和の入門者が最初に学ぶ体練や身のこなし、基礎的な体術技法のこと、
大津家での稽古は、常に野外(庭の芝生や山の斜面等)で、裸足で行っていたこと、
同流和の技は、常に後の先を遣うこと、
同流の十字手裏剣の投法や鍵手等の武具のこと、
傑出した技術とともに人格も高潔で、大津宗家の後任を嘱望されていた故S師範のこと。
昭和32年頃、東京都の江戸開府記念祭で、同流S師範が演武し、その高度な技法に警視庁の人々が驚いたため、今まで同流に関心がなかった青森県警察も見直すようになった話。
同和術が、忍びの術も兼ねているだろうこと、その服装や卵を使った秘武器のこと、
昔の修行者は、弘前城天守閣から飛び降りることもできたという伝承。
近代に、弘前市元寺町に道場を開いていた三橋某氏が、表看板に當田流剣術を掲げながら、本覚克己流和も習得されていたが、あるとき秋田から来た剣道家に門人たちがすべて敗れるなか、最後に立ち合い、組打ちで同流和の技を用いて勝ったお話。
その三橋氏からK師範も、當田流の剣技とその実戦的な遣い方、心構えを習ったこと等…。
いろいろお話は尽きなかったが、K師範は、同流和のことで今後、表舞台に出られることはないそうだ。
よって、残念ながら詳しく報告できない。我々も今後、お邪魔にならないようにご教導いただくつもりだ。
さらに光栄なことに、K師範から、17世紀の林崎新夢想流居合の絵伝書一巻をいただいた。(ほかにも4巻あったが、秋田県の居合道高段者へ差し上げたという)
今回のご訪問は本覚克己流のことだけで、事前に林崎居合のことは何もお話していない。
お会いした際「林崎新夢想流居合も研究稽古していること」をお伝えしたところ、神棚から伝書を下ろされてきて「私にはもう関係ないから差し上げます」とおっしゃっていただいた。
ここへ来る前まで、同居合の独り稽古をしていたので、その奇遇さに驚いた。
やはり、ご縁があるのだろうか。
深く感謝するともに、今後の精進のための道しるべとさせていただきたい。
ともかく本日のお話で、武の遺産を継承するため、各時代で奮闘してきたそれぞれの先人達それぞれの闘い、そして断腸の決断等に思いを馳せ、改めていろいろ考えさせられた。
私はどうするのだ。
やはり、誰でもない、己自身で立て、ということだろう。
その時代ごとの課題があるのだから、先人達と全く同じ方法では全く通用しないだろう。
おそらく私は、否応なしに、どの先人達とも異なる、独特の道筋へと導かれていくだろう。
どうするか。いや、千変万化こそ武の命題だ。
私が生きているこの時代固有の課題に向き合い、生きのびるためにも、変化と工夫を。
(お知らせ)
日本武道文化研究所「全国古流武術フォーラム2016-林崎甚助の居合を探るII」開催(http://hayashizakishinmusoryu.jimdo.com/event/event3/)
一緒に、日本各地の林崎流系統の居合の歴史や実技を楽しく学びます。
初心者や異流派、他の武種の方も歓迎します。
皆様のご参加をお待ちしております。