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津軽地方在住で、もと本覚克己流和師範であったK先生からいただいた、旧弘前藩の「林崎新夢想流居合 極位秘術 唯授一人目録 向次第」(巻子本)1巻の写真である。
このほかに4巻あったが、秋田県在住の居合道高段者の求めに応じて、寄贈されてしまったという。
(なお、K師範は、各流派について「ほんがくこっきりゅう」「はやしざきじんむそうりゅう」と呼ばれる)
この伝書の発行年は不明だが、発行者である山形半十郎茂高(茂倫とも書く)は、17世紀後半の同藩屈指の剣豪浅利伊兵衛均禄(ただよし)の弟子で、我が先祖小山次郎太夫英貞へ同流を伝えた人物のため、同書は、18世紀に発行されたものとみられる。
なお、同じ形式の伝書は、津軽各所にたくさん散在しており、我が家の父祖たちの名前もよく書かれている。
弘前藩士であった小山次郎太夫は、この教えを胸に、安永4年(1775)5月23日に、山形の林崎居合神社を参詣した記録が、同社に残されているそうだ。
この伝書では、同流で最初に学ぶ「向」(表向身)7本を図示している。
まるで意味不明の抽象的な記号に見えるが、技の動きを、矢印ではなく、筆遣いで示したり、術者の身体の表現方法も含めて、実技を稽古した者ならば共感できるような描き方だ。
前近代の身体観念と絵画的表現、伝承方法を考えるうえでも、貴重な資料になるのではないだろうか。
来る10月8日(土)、山形県村山市で開催される、日本武道文化研究所「全国古流武術フォーラム2016-林崎甚助の居合を探るII」(http://hayashizakishinmusoryu.jimdo.com/event/event3/)でも、この伝書に記された形群の実際の技法を紹介する予定だ。
当日、会場で技を実見し、体験しながら、この伝書の絵と比較してみると面白いだろう。
よく、現在の伝承技法が、近世の絵伝書が描く姿勢とは異なってしまった古流も少なくないが、この居合が、比較的、当時の絵伝書とあまり変わらない姿勢で伝承されている古法であることが、推測できよう。
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