昨日のことだ。
古代の鬼が打ったという、伝説の刀に触れた。
その神社は霊山の奥地にある。実名は言えない。
その霊山信仰が発祥した地だとされ、それを裏付けるかのように,境内からは縄文土器や土師器が出土する。
近世には、代々の藩主たちも崇敬してきたという。
いまでもその社は、樹齢800年といわれる、物凄い太さのご神木たちに囲まれている。
その雰囲気は現代のものではない。「もののけ姫」のような異世界、古代そのままの森だ。
その鬼の刀は、ここ数十年、秘匿され、誰も見たことがなかったといわれている。
だから私もダメだろうと覚悟していた。
しかし奇遇にも、約20代目となる宮司は、その古き伝説の刀を、いきなり民俗調査に来ただけの見知らぬ私に、笑顔で示してくれたのだ。
なんという僥倖か。
伝説によればその刀は、古代に鬼が、その口から炎を吐き、その歯で何度も噛んで鍛え、一晩に何本も作った刀のひとつだという。
その通りなのか、古代の有名な刀工の銘が彫られていた。
残念ながら私には美術刀剣の鑑定眼が全く無い。
しかし、伏し拝んでから、実際に我が手に取らせていただいたとき、違和感が全くなかった。
武具としては使いやすい刀、私が抜刀稽古で使っている愛刀を彷彿させるお姿だった。
何度も拝見し、再び伏し拝んでから鞘に戻し、刀袋へ納め、宮司へお返しした。
まさかこの伝説の刀にお会いできるとは。
わがふるさとには天狗の伝説は少なく、その代わりに山に棲んで鉄を使い、仏僧やシャーマンに力を貸し、人々を教え導く鬼たちの伝説が多いのだが、私はその鬼神様にご縁があるのかもしれない。
深く感謝しながら、雪に埋もれた神社を後にした。